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名古屋地方裁判所 昭和52年(行ウ)23号 判決

原告

稲垣襄

被告

愛知県知事

鈴木礼治

右訴訟代理人

片山欽司

外二名

被告

岡崎市長

中根鎮夫

被告

岡崎市本町康生西第二市街地再開発組合

右代表者理事長

中根太郎

右両名訴訟代理人

黒河衛

黒河陽

主文

一  本件各訴えのうち、次の各訴えを却下する。

1  被告愛知県知事が、岡崎市本町康生西第二市街地再開発事業に関し、岡崎市に対してした別紙目録(一)記載の各補助金交付決定及び被告岡崎市長が、右事業に関し、被告岡崎市本町康生西第二市街地再開発組合に対してした別紙目録(二)記載の各補助金交付決定の取消しを求める訴え。

2  被告組合に対して岡崎市所有の別紙目録(五)記載の各土地につき権利変換手続を執ることを求める訴え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告愛知県知事(以下、「被告知事」という。)が、岡崎市本町康生西第二市街地再開発事業に関し、岡崎市に対してした別紙目録(一)記載の各補助金交付決定及び被告岡崎市長(以下、「被告市長」という。)が、右事業に関し、被告岡崎市本町康生西第二市街地再開発組合(以下、「被告組合」という。)に対してした別紙目録(二)記載の各補助金交付決定を取り消す。

2  被告市長が岡崎市所有の別紙目録(三)記載の各土地の管理を怠っていることが違法であることを確認する。

3  被告組合は、岡崎市所有の別紙目録(五)記載の各土地につき権利変換手続を執れ。

4  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  被告知事

(本案前の答弁)

主文同旨

(本案の答弁)

(一) 原告の被告知事に対する請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

2  被告市長

(本案前の答弁)

(一) 原告の被告市長に対する訴えをいずれも却下する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

(本案の答弁)

(一) 原告の被告市長に対する請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

3  被告組合

(本案前の答弁)

主文同旨

(本案の答弁)

(一) 原告の被告組合に対する請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は愛知県岡崎市の住民である。

2  被告知事は、昭和四八年三月二九日、岡崎市本町康生西第二市街地再開発事業(以下、「本件事業」という。)についての都市計画(以下、「本件都市計画」という。)を決定し、翌三〇日、その旨を告示した。

3  本件都市計画決定に係る本件事業は、第一種市街地再開発事業であるから、その施行区域に関しては、都市再開発法(ただし、昭和五〇年法律第六六号による改正前のもの、以下同じ)三条所定の条件を具備しなければならないところ、本件事業の施行区域は、同条二号所定の条件を充たしていない。すなわち、同法三条二号によれば、本件事業の施行区域内にある耐火建築物以外の低層建築物(地階を除く階数が二以下の建築物)の建築面積の合計が当該区域内にあるすべての建築物の建築面積の合計の三分の二を超えていなければならないところ、本件都市計画決定が告示された昭和四八年三月三〇日当時、本件事業の施行区域内の耐火建築物以外の低層建築物の建築面積の合計は、当該区域内にあるすべての建築面積の51.72パーセントにすぎず、右条件に違反している。したがつて、被告知事がした本件都市計画決定は、右条件違反の点を看過してなされたものであるから違法である。

4  被告知事は、本件事業のために、岡崎市に対し、別紙目録(一)記載の各補助金交付決定を行い、被告市長は、被告組合に対し、同目録(二)記載の各補助金交付決定を行つた。

5  しかしながら、前記のとおり、本件都市計画決定は違法であるから、本件事業に対する右各補助金交付決定は、いずれも違法である。

6(一)  岡崎市は、昭和四九年二月二五日、ジャスコ株式会社(以下、「ジャスコ」という。)との間で、同市所有の別紙目録(三)の1記載の土地とジャスコ所有の別紙目録(四)の1の(一)、(二)記載の二筆の土地とを交換した。

(二)  普通地方公共団体の財産は、条例又は議会の議決による場合でなければ、これを交換等することを禁止されており(地自法二三七条二項)、岡崎市は、「岡崎市財産の交換、譲与、無償貸付等に関する条例」(以下、単に「条例」という。)を制定し、特定の場合に限りこれを許容する定めを置いている。すなわち、条例三条一項には、「普通財産は、土地又は土地の定着物若しくは堅固な建物に限り、市、国又は公共団体において公共用又は公用に供するため必要があるとき、又は国の企業若しくは公益事業の用に供するため必要があるときは、これをそれぞれ土地又は土地の定着物若しくは堅固な建物と交換することができる。」と規定されており、交換が許容される場合を限定している。

(三)  岡崎市とジャスコとの間の前記交換は、条例三条により許容された交換に該当しないから、右交換は地方自治法(以下、「単に「地自法」という。)二三七条二項に違反し無効である。すなわち、本件都市計画決定によると、岡崎市が右交換により取得した別紙目録(四)の1記載の二筆の土地は、本件事業の施設建築敷地の共同施設の広場として整備されるべく計画されており、公共施設として計画決定されていない。したがつて、右交換は、岡崎市において公共用又は公用に供するため必要がある場合には該当しない。

(四)  以上のとおり、右交換は無効であるから、別紙目録(三)の1記載の土地は、岡崎市の所有であり、しかも、右土地は、本件事業の施設建築敷地であつて、都市再開発法二条五号所定の宅地であるから同法の定める権利変換手続を受けるべき土地である。しかるに、右土地について権利変換手続は執られていないから、被告市長は、被告組合に対し、右土地につき権利変換手続を執るように請求すべきであるのに、これを違法に怠つている。

なお、仮に、右土地が、右宅地に該当しないとしても、市街地再開発事業施行地区内の土地は、すべて権利変換手続が執られるべきものと解すべきである。

7(一)  岡崎市は、昭和四七年八月一二日、株式会社井澤屋(以下、「井澤屋」という。)との間で、同市所有の別紙目録(三)の2記載の土地と井澤屋所有の別紙目録(四)の2記載の土地とを交換した。

(二)  岡崎市と井澤屋との間の右交換は、条例三条により許容された交換に該当しないから、右交換は地自法二三七条二項に違反し、無効である。すなわち、岡崎市が右交換により取得した別紙目録(四)の2記載の土地は、岡崎市本町康生西第一市街地再開発事業の施設建築敷地内の通路の施行地区外の延長通路の用に供されているにすぎず、道路法上の道路となるべき手続が履践されていないから、岡崎市において、右土地を公共用又は公用に供しているとはいえない。したがつて、右交換は、岡崎市において公共用又は公用に供する必要がある場合には該当しない。

(三)  以上のとおり、右交換は無効であるから、別紙目録(三)の2記載の土地は岡崎市の所有であり、被告市長は、井澤屋に対し、右土地についての井澤屋の占有、管理を排除してその返還を請求すべきであるのに、これを違法に怠つている。

8(一)  岡崎市が所有する別紙目録(三)の3記載の土地は、岡崎市本町康生西第一市街地再開発事業の施行地区内の土地であり、施設建築敷地内の共同設備の広場及び通路として整備すべく都市計画決定されたものである。

(二)  右土地は、都市再開発法上の宅地に該当するから、右土地についても権利変換手続が執られるべきであるのに、現在に至るまで、右手続は行われていない。

(三)  したがつて、被告市長は、岡崎市本町康生西第一市街地再開発組合に対し、右土地について権利変換手続を執るように請求すべきであるのに、これを違法に怠つている。

なお、仮に、右土地が都市再開発法上の宅地に該当しないとしても、市街地再開発事業施行地区内の土地は、すべて権利変換手続が執られるべきものと解すべきである。

9(一)  岡崎市が所有する別紙目録(三)の4記載の土地は、岡崎市本町康生西第一市街地再開発事業の施設建築敷地内の通路の施行地区外の延長通路の用に供されている。

(二)  しかしながら、右土地は、岡崎市の普通財産であるから、右延長通路の用に供することは違法である。

(三)  したがつて、被告市長が、右土地を右延長通路の用に供したまま放置していることは、岡崎市所有の財産の管理を違法に怠つているものというべきである。

10(一)  岡崎市は、昭和五二年一二月一六日、日興ビルディング株式会社(以下、「日興ビルディング」という。)との間で、同市所有の別紙目録(三)の5記載の土地と日興ビルディング所有の別紙目録(四)の3記載の土地とを交換した。

(二)  岡崎市と日興ビルディングとの間の右交換は、条例三条により許容された交換に該当しないから、右交換は地自法二三七条二項に違反し、無効である。すなわち、岡崎市が右交換により取得した別紙目録(四)の3記載の土地は、本件事業の施行地区外の土地であり、施設建築敷地の通路の幅員の不足及び右通路を直線にするために右通路の用に供されているにすぎず、岡崎市において、右土地を公共用又は公用に供しているとはいえない。したがつて、右交換は、岡崎市において公共用又は公用に供するため必要がある場合に該当しない。

(三)  以上のとおり、右交換は無効であるから、別紙目録(三)の5記載の土地は岡崎市の所有であり、被告市長は、日興ビルディングに対し、右土地についての日興ビルディングの占有、管理を排除して、その返還を請求すべきであるのにこれを違法に怠つている。

11(一)  岡崎市は、本件事業の施行地区内に、都市再開発法二条四号所定の公共施設として別紙目録(五)の1記載の各土地を同条五号所定の宅地として同目録の2記載の各土地を所有している。

(二)  都市再開発法七三条一項一五号、八二条等を総合すれば、施行地区内のすべての権利が権利変換計画に定められ、これに基づき権利変換処分が行われるものと解すべきであるから、右各土地については、いずれも権利変換手続が執られるべきである。しかるに、右各土地については、いずれも権利変換手続は執られていない。

したがつて、岡崎市は被告組合に対し、右各土地につき権利変換手続を執ることを請求でき、被告組合は、右手続を執るべき義務がある。

12  原告は、昭和五二年二月一二日付で愛知県監査委員に対し、また、同日付、同年三月一日付、同年四月一五日付で岡崎市監査委員に対し、請求の趣旨記載の各財務会計上の非違行為の是正を求め、監査請求をしたが、愛知県監査委員は同年四月一四日付で、岡崎市監査委員は同月一五日付、同月二三日付で、原告に対し、原告の請求は理由がない等の通知をした。

13  よつて、原告は、被告知事及び被告市長に対し、地自法二四二条の二第一項二号に基づき前記各補助金交付決定の取消しを、被告市長に対し、地自法二四二条の二第一項三号に基づき別紙目録(三)記載の各土地の管理を怠つていることの違法確認を、被告組合に対し、地自法二四二条の二第一項四号に基づき別紙目録(五)記載の各土地につき権利変換手続を執ることを求める。

二  被告知事の主張

(本案前の主張)

被告知事が岡崎市に対してした別紙目録(一)記載の各補助金交付決定は、被告知事における内部的決定にすぎないから行政処分に該当せず、また、被告知事がした右各補助金の交付行為は、私法上の負担付贈与の履行にすぎないから、右各補助金交付決定が行政処分であることを前提とする原告の訴え(請求の趣旨第一項)は不適法であつて却下されるべきである。

すなわち、愛知県は、本件において岡崎市に交付したように、都市再開発法一二二条の趣旨に則り、市街地再開発事業に関し、その基本計画及び整備計画を作成する施行者に当該事業に要する費用の一部を補助する地方公共団体に対し、補助金を交付しているが、その根拠は、地自法二三二条の二の規定であり、同条所定の要件である「公益上必要がある場合」に該当するとして行われているものである。また、右補助金の交付は、国のそれとは独立したものであつて、これと一体をなすものではなく、国が行う補助金等の交付については、補助金等に係る予算の適正化に関する法律(以下、「適正化法」という。)の適用があるが、被告知事がした前記各補助金交付決定については同法の適用がなく、地自法二三二条の二の規定に基づくほかは、特別の法令、条例に根拠をもつものではない。したがつて、被告知事がした右各補助金交付決定は、行政処分に該当せず、愛知県が岡崎市に対し、私法上の負担付贈与を行うことを内部的に決定したものにすぎないというべきである。

(請求原因に対する認否)

1 請求原因1ないし4の事実は認める。ただし、同3につき、本件事業の施行区域が都市再開発法三条二号所定の条件を具備していないとの主張及び本件都市計画決定が違法であるとの主張は争う。

2 同5は争い、同12は認め、同13は争う。

(本案についての主張)

1 本件都市計画決定に係る本件事業は、都市再開発法三条二号の条件を具備しており、また、仮に具備していないとしても、右瑕疵は、本件都市計画決定を違法とするものではない。

すなわち、右規定の定める条件は、施行区域内にある耐火建築物以外の低層建築物(地階を除く階数が二以上の建築物)の建築面積の合計が当該区域内にあるすべての建築物の建築面積の合計の三分の二を超えていなければならないというものであるが、本件の場合、昭和四六年三月下旬から同年四月下旬までの間に行われた現地調査の時点においては、右割合は67.2パーセントであり、右条件を具備していた。岡崎市が昭和四七年一二月、本件事業の施行区域内に存在していたその所有に係る旧警察庁舎を取り毀したことによりその時点で、右割合が51.72パーセントになつたことは事実であるが、右取り毀しは、右庁舎が木造で極めて老朽化しており、これを使用していた市立図書館、防衛庁関係施設等が順次移転し、昭和四七年一〇月以降は、全く使用されていない状態となつたため、岡崎市が防火、防犯上の配慮と、本件事業に要する経費を軽減させて本件事業を側面的に援助することを目的として行つたものであるから、右割合を算定するに際しては、右取り毀しがなかつたものとして計算すべきである。

もつとも、昭和四六年一二月に右施行区域において、耐火建築物以外の建築物(128.76平方メートル)が取り毀され、耐火建築物(157.08メートル)が建築されたことにより、その時点において耐火建築物以外の建築物の建築面積割合が64.9パーセントとなりわずかに三分の二を割つたことも事実であるが、それは後日の調査の結果判明したものであつて、その時点では、右事実が認識されていなかつたこと、右条件に違反する割合は、わずか1.8パーセントにすぎず、しかも、同記現地調査の時点において右条件が具備していることを確認した上で、順次法令の定める手続に従い本件事業が施行されてきたこと、本件事業は、都市再開発法三条一号、三号、四号の条件を具備していること等を併せ考えれば、右事業をもつて、本件都市計画決定が違法となるものではない。

2 また、仮に、本件都市計画決定に瑕疵が存在し、違法な点があるとしても、右違法性は、被告知事がした本件各補助金交付決定には承継されないから、原告の本訴請求は理由がない。

すなわち、先行行為に瑕疵があつたとしても、右瑕疵が重大かつ明白であるため先行行為が無効となるか又は先行行為が権限ある行政庁若しくは裁判所によつて取り消されない限り、右先行行為に基づく後行行為が当然に違法となるべき理由はないのであるが、本件において、原告が本件都市計画の違法事由として主張する点は、重大かつ明白な瑕疵に当たらないから、違法性の承継を認めることはできない。

三  被告市長の主張

(本案前の主張)

1 被告市長が被告組合に対してした別紙目録(二)記載の各補助金交付決定は、被告市長における内部的決定にすぎないから行政処分に該当せず、また、被告市長がした右各補助金の交付行為は、私法上の負担付贈与の履行にすぎないから、右各補助金交付決定が行政処分であることを前提とする原告の訴え(請求の趣旨第一項)は不適法であつて却下されるべきである。その主張の詳細は、被告知事の本案前の主張と同旨である。

2 原告の本件訴えのうち、請求の趣旨第二項の「被告市長が岡崎市所有の別紙目録(三)の125記載の各土地の管理を怠つていることが違法であることを確認する。」との請求部分は、要するに、岡崎市所有の右各土地をジャスコ、井澤屋、日興ビルディング所有の各土地と交換した契約がいずれも無効であるとの主張を前提とするものである。そうだとすると、原告は、右請求については、右各土地の交換契約の無効確認の訴え、すなわち、地自法二四二条の二第一項四号の請求として構成すべきである。しかるに、原告は、右交換契約が無効であることを前提に、財産の管理を怠る事実として構成し、同項三号に基づき、その違法確認を求めているから、原告の本件訴えのうち、右請求部分は不適法というべきである。

(請求原因に対する認否)

1 請求原因1ないし4の事実は認める。ただし、同3につき、本件事業の施行区域が都市再開発法三条二号所定の条件を具備していないとの主張及び本件都市計画決定が違法であるとの主張は争う。同5は争う。

2 同6の(一)、(二)は認め、同(三)は否認し、同(四)は争う。なお、別紙目録(三)1記載の土地について権利変換手続が執られていないことは認める。

3 同7の(一)は認め、同(二)のうち、別紙目録(四)の2記載の土地が岡崎市本町康生西第一市街地再開発事業の施行地区内の通路の施行地区外の延長通路の用に供されていることは認め、その余は否認し、同(三)は争う。

4 同8の(一)のうち、岡崎市が所有する別紙目録(三)の3記載の土地が岡崎市本町康生西第一市街地再開発事業の施行地区内の土地であることは認め、その余は否認する。同(二)は否認し、同(三)は争う。右土地は都市再開発法二条四号の公共施設の用に供されている土地である。

5 同9は、別紙目録(三)の4記載の土地が岡崎市が所有する土地であることを認め、その余は否認する。別紙目録(三)の4記載の土地は、岡崎市本町康生西第一市街地再開発事業の施行地区内に必要な施設(都市再開発法二条四号の公共施設)として設置された区画通路と市道5類1号線とを接続するための通路の用に供するため、昭和四八年八月一二日、行政財産に種別替され、現にその用に供されている。

6 同10の(一)は認め、同(二)は、別紙目録(四)の3記載の土地が本件事業の施行地区外の土地であることは認め、その余は否認し、同(三)は争う。右土地は、本件事業の施行地区内に存在する岡崎市康生通西二丁目二一番地一、同所二〇番地九、一一、一五、一七、同所五一番地一の区画通路の幅員の不足を補い、当該通路を直線にするために通路の用に供されているが、右施行地区内の通路は建築敷地には含まれていない。

7 同12は認め、同13は争う。

(本案についての主張)

1 本件都市計画決定が違法である旨の原告の主張に対する反論及び仮に本件都市計画決定が違法であるとしても、その違法性は被告市長がした補助金交付決定に承継されない旨の主張は、被告知事の右の点についての主張(前記二 被告知事の主張、(本案についての主張)12)と同一である。

2 請求原因6記載の交換について

岡崎市がジャスコとの間でなした原告主張の交換は適法である。

岡崎市が、ジャスコ所有の別紙目録(四)の1記載の二筆の土地を右交換により取得したのは、本件事業の施行地区内において、右地区を良好な都市環境とし付近住民の利用に供するための公共施設として広場を設置するためである。また、右交換によつて取得した右各土地は、昭和四九年二月二五日、広場として公共の用に供するものと決定されて行政財産に種別替され、現にその用に供されている。

したがつて、右交換は、条例三条一項所定の「市において公共用に供するため必要があるとき」に該当するから、地自法二三七条二項に違反しない。

3 請求原因7記載の交換について

岡崎市が井澤屋との間でなした原告主張の交換は適法である。

岡崎市が井澤屋所有の別紙目録(四)の2記載の土地を右交換により取得したのは、本件事業に先立つて施行された岡崎市本町康生西第一市街地再開発事業に関する都市計画決定が昭和四六年二月五日に告示されたことに伴い、岡崎市が右事業の施行地区内に必要な施設(付近住民の利用にも供されるもの)として設置した区画通路と市道5類1号線とを接続するための通路の用に供する目的で取得したものである。そして、右交換によつて取得した土地は、昭和四七年八月一二日、取得と同時に通路として公共の用に供するものと決定され、行政財産に種別替され、現にその用に供されている。

したがつて、前項と同様の理由により、右交換は、地自法二三七条二項に違反しない。

4 請求原因8記載の主張について

別紙目録(三)の3記載の土地は、岡崎市が、昭和四〇年三月二九日交換により大蔵省から取得した岡崎市康生通西三丁目一五番から分筆されたものであるが、岡崎市が岡崎市本町康生西第一市街地再開発事業の施行地区内において、右地区を良好な都市環境とし、付近住民の利用にも供するための公共施設として広場を設置することとし、岡崎市本町康生西第一市街地再開発組合による権利変換計画樹立前に、右土地を右公共施設の用に供することを決定し、現にその用に供されている。したがつて、右土地は、都市再開発法二条四号の公共施設の用に供される土地に該当するから、権利変換の対象となるべき土地ではなく、右権利変換手続を行う必要のないものである。

よつて、右土地につき、被告市長が権利変換手続を執るように、右再開発組合に請求しないことについては、何ら違法な点はない。

なお、右土地について、誤つて権利変換手続開始の登記がなされたが、後日、右登記は、錯誤を原因として抹消された。

5 請求原因10記載の交換について

岡崎市が日興ビルディングとの間でなした原告主張の交換は適法である。

岡崎市が日興ビルディング所有の別紙目録(四)の3記載の土地を右交換により取得したのは、本件事業の施行地区内に存在する岡崎市設置に係る区画通路(岡崎市康生通西二丁目二一番地一、同所二〇番地七、九、一一、一五、同所五一番地この幅員の不足を補い、かつ、右通路を直線にするための通路敷地に充てる目的でこれを取得したものである。そして右交換によつて取得した土地は、行政財産として、右通路の用に供されている。

したがつて、右交換は条例三条一項の「市において公共用に供するため必要があるとき」に該当するから地自法二三七条二項に違反しない。

四  被告組合の主張

(本案前の主張)

原告は、請求の趣旨第三項の請求は、作為を求める訴えであつて、地自法二四二条の二第一項四号を法的根拠とするものであると主張する。

しかしながら、右規定は、住民が普通地方公共団体に代位して請求することを認めたものであるが、右規定に基づき代位請求をなし得るのは、当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に対しては、法律関係不存在確認の請求、損害賠償の請求、不当利得返還の請求、原状回復の請求、妨害排除の請求に限られている。原告の求める権利変換手続の請求は、右の各請求のいずれにも該当しないから不適法な請求というべきである。

(請求原因に対する認否)

1 請求原因1、同12は認める。

2 同11のうち、岡崎市が本件事業の施行地区内に別紙目録(五)の1、2記載の各土地を所有していたこと、右1記載の各土地が都市再開発法二条四号所定の公共施設であること、右1、2記載の各土地につき権利変換手続が執られなかつたことは認め、その余は否認ないし争う。

(本案についての主張)

別紙目録(五)の1、2記載の各土地は、いずれも都市再開発法二条四号所定の「公共施設」に該当し、同条五号所定の「宅地」ではないから、右各土地については、権利変換手続を執る必要はない。

すなわち、都市再開発法上、権利変換の手続は、施行地区内の宅地及び建築物並びにその宅地に存する借地権について行うと規定されている(同法七〇条以下)が、右「宅地」とは、公共施設の用に供されている国及び地方公共団体の所有する土地以外の土地をいうのであつて(同法二条五号)、不動産登記法上の「宅地」とは異なる概念である。岡崎市が所有する別紙目録(五)の1、2記載の各土地は、岡崎市が、本件事業施行地区内に、右地区を良好な都市環境とし、付近住民の利用にも供すべき必要な施設として区画通路、広場を設置することとし、被告組合による権利変換計画樹立前(権利変換計画認可申請の日以前)にその用に供するものと決定し、かつ、現にその用に供している土地である。

したがつて、右各土地は、都市再開発法二条四号の公共施設であるから、本件事業において権利変換の対象とすべき宅地ではなく、権利変換の手続を執る必要がない。

なお、都市計画に定められているような都市全体からみて必要な骨格的な施設である都市施設とは別に、本件のように市街地再開発組合が施行する市街地再開発事業を契機として、地方公共団体自らが当該施行地区を良好な都市環境とし、付近住民はもとより一般市民の利用にも供すべきものとして、その地区に必要な区画通路、広場等の施設を設置する場合、右区画通路(都市計画法施行規則七条一号にいう区画街路の規模には達していないが、これに準ずる施設)、広場等は、同法二条四号の公共施設に含まれるものというべきである。

また、右各土地は、被告組合による権利変換計画樹立前に、既に公共施設として、その用に供されていたものであり、本件事業によつて新たに設置された公共施設ではないから、都市再開発法七三条一項一五号、八二条所定の手続も不要である。

五  被告らの本案前の主張に対する

原告の反論

1  被告知事が岡崎市に対してした別紙目録(一)記載の各補助金交付決定及び被告市長が被告組合に対してした別紙目録(二)記載の各補助金交付決定は、いずれも地自法二四二条の二第一項二号所定の「行政処分たる当該行為」に該当する。

すなわち、被告組合が本件事業遂行のために必要とする事業費のうち、調査設計計画費、土地整備費、共同施設整備費、附帯事業費の三分の二が補助金として被告組合に交付されるが、そのうち、二分の一を国が、各四分の一を愛知県、岡崎市が交付することになつている。国が交付する補助金については、適正化法が適用されるのであり、被告知事(愛知県)及び被告市長(岡崎市)がした右各補助金交付決定ないしその交付行為は、国の右補助金交付と一体をなすものである。また、愛知県がした補助金の交付は、被告知事がした都市計画決定に基づいて行われている本件事業のために、都市再開発法一二二条に基づき補助金を交付した岡崎市に対し、愛知県市街地再開発事業補助金交付要綱に則り交付されたものである。

したがつて、補助金の交付は、本来、非権力的な作用であるが、被告知事及び被告市長がした右各補助金交付決定は、公法上の単独行為についての決定であり、一方的な公権力の行使に該当するから行政処分(形式的行政処分)と解すべきであり、単なる私法上の負担付贈与と解すべきではない。

2  被告組合に対する請求の趣旨第三項の請求は、地自法二四二条の二第一項四号所定の「当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に対する………妨害排除の請求」に該当するから、被告組合主張の本案前の抗弁は理由がない。

すなわち、別紙目録(五)記載の各土地は、本件事業施行前、岡崎市所有の宅地(都市再開発法二条五号)若しくは公共施設(同条四号)であつたところ、右各土地についてはいずれも権利変換手続が執られることなく事業が行われた。そのため、右各土地は、岡崎市所有名義のまま現在に至つているが、右各土地は施設建築敷地に整備されており、本案の所有権の行使が妨害されている。したがつて、被告組合に対し、権利変換手続を求めることは、右妨害の排除を求めることになる。

六  被告らの本案についての主張に対する認否及び反論

被告らの本案についての主張はすべて争う。

なお、都市再開発法七三条一項一五号、八二条所定の「新たな公共施設の用に供する土地」を新設された公共施設の用に供する土地と解する見解(被告組合の主張)は誤りである。右各規定にいう「新たな」の意味は、「新設された」の意味だけでなく、新設されたものも含めて事業施行後、すなわち「再開発後」の意味に解すべきである。したがつて、再開発後、公共施設の用に供される別紙目録(五)記載の土地についても権利変換の手続が執られるべきである。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

一請求の趣旨第一項の請求について

1  請求原因1ないし4、同12の各事実は、原告と被告知事、被告市長との間において争いがない(ただし、同3のうち、本件事業の施行区域が都市再開発法三条二号所定の条件を具備していないとの点及び本件都市計画決定が違法であるとの点については争いがある。)。

2 そこで、被告知事及び被告市長は、それぞれがした別紙目録(一)、(二)記載の各補助金交付決定が、いずれも地自法二四二条の二第一項二号所定の「行政処分たる当該行為」に該当しないから、これに該当することを前提として右各補助金交付決定の取消しを求める本件訴えは不適法であると主張するので、以下、この点について検討する。

右各補助金交付決定は、被告知事については地自法二三二条の二に基づき、被告市長については、同条及び都市再開発法一二二条に基づき、それぞれ行われたものであるが、弁論の全趣旨によれば、被告知事がした右各補助金の交付に関しては、右各交付決定当時、その交付手続について条例等による法的な規制は何ら存しなかつたこと(〈証拠〉によれば、昭和五五年三月二六日、愛知県補助金等交付規則が制定されたが、右規則は、同年四月一日より前に交付が決定された補助金等については適用されないものとされていることが認められるから、被告知事がした別紙目録(一)記載の補助金については、右規則の適用がないことになる。また、〈証拠〉によれば、被告市長がした右各補助金の交付に関しては、岡崎市市費補助金等に関する規則に則つて行われたことが認められる。

思うに、地方公共団体が、地自法二三二条の二に基づいて行う補助は、これに対し行政処分的性質を付与する特段の法的な規制が加えられていない限り、原則として私法上の贈与に類するものであり、地方公共団体の長が行う補助金交付決定は、私法上の贈与契約の申込みに対する承諾と同視することができるから、右決定は行政処分に該当しないものと解するのが相当である。

そこで、右見解に立つて、右各補助金交付決定の法的性質をみるに、被告知事がした別紙目録(一)記載の各補助金刻付決定については、前記のとおり、交付決定当時、その交付手続について条例等による法的規制は何ら存しないのであるから、右各決定が行政処分に該当しないことは明らかであり、また、被告市長がした別紙目録(二)記載の各補助金交付決定については、それが岡崎市市費補助金等に関する規則に則つて行われたことが窺えるけれども、〈証拠〉によれば、右規則は、市費補助金等に係る予算の執行の適正化を図ることを目的として、市費補助金等の交付の申請、決定等に関する事項その他市費補助金等に係る予算の執行に関する基本的事項を規定したものであるが、交付決定に対する不服申出の手続も規定されていないことが認められることなどからすると、右規則は岡崎市が補助金を交付するに当たつて、よるべき手続上の細則を定めたものにすぎないものというべきであり、これに従つて岡崎市の「課等の長」が行う補助金交付決定に行政処分的性質を付与するものとは解し得ない。

また、原告は、被告知事、被告市長がした右各補助金交付決定ないしその交付行為は、国の被告組合に対する補助金の交付と一体をなすものであり、国の右補助金の交付については適正化法が適用され、行政処分的性質を有しているから、これと一体をなす被告知事、被告市長がした右各補助金交付決定は行政処分と解すべきである旨主張する。

しかしながら、適正化法は国が交付する補助金等の交付の申請、決定等について適用されるものであり、本件のように、地方公共団体が独自に行う補助金の交付について、その適用がないことは、同法の規定に照らし明らかであり、また、被告知事、被告市長がした右各補助金交付決定が、国の補助金の交付と一体をなしているとは認め難いから、原告の右主張は理由がない。

したがつて、被告知事、被告市長がした右各補助金交付決定は、いずれも、地自法二四二条の二第一項二号所定の「行政処分たる当該行為」に該当しないから、これに該当することを前提として右補助金交付決定の取消しを求める本件訴えは不適法といわざるを得ない。

二請求の趣旨第二項の請求について

1  被告市長は、本件訴えのうち、「被告市長が岡崎市所有の別紙目録(三)の1、2、5記載の各土地の管理を怠つていることが違法であることを確認する。」との請求部分が、本来、右各土地の交換契約の無効確認の請求として、すなわち、地自法二四二条の二第一項四号の代位請求として構成すべきであるのに、これを財産の管理を怠る事実として構成し、同項三号に基づき、その違法確認を求めていることを理由に不適法な訴えであると主張している。

被告市長の右主張の趣旨は必ずしも明らかではないが、その趣旨は、原告の主張事実を前提とすると地自法二四二条一項四号所定の代位請求によることがより直截であり、かつ、可能な場合に、これを出訴期間等の関係から殊更、同項三号の請求に構成して請求することは許されないと主張するものと解し得る。しかしながら、原告の主張事実を前提とした場合に、本訴のように怠る事実の違法確認の請求として構成するよりも、被告主張のように土地交換契約の無効確認の請求として構成する方がより直截であるとは一概にいい難く、また、一般に、地自法二四二条の二第一項四号に基づく代位請求が可能な場合には、これを同項三号に基づく怠る事実の違法確認請求と構成して提訴することは許されないと解すべき法文上の根拠はないので、結局、被告の右主張は理由がない。

2  請求原因6記載の交換の適否について

(一)  請求原因6の(一)、(二)の事実は、原告と被告市長との間において争いがない。

(二)  原告は、岡崎市とジャスコとの間の右交換は、条例三条一項により許容された交換、すなわち、岡崎市において「公共用又は公用に供するため必要があるとき」において行われる交換に該当しないから、地自法二三七条二項に違反し、無効であると主張し、〈証拠〉によれば、岡崎市が右交換によりジャスコから取得した別紙目録(四)の1記載の二筆の土地の用途である広場は、本件事業に係る都市計画において、公共施設の配備及び規模の箇所では触れられておらず、建築敷地の整備の一環として計画されていることが認められる。しかしながら、〈証拠〉によれば、岡崎市が右交換に供した別紙目録(三)の1記載の土地は、右交換前の昭和四八年一二月六日、用途廃止され、行政財産から普通財産に種別替されたこと、岡崎市が、右土地との交換によつてジャスコから別紙目録(四)の1記載の二筆の土地を取得した目的は、右二筆の土地を、本件事業の施行地区内において、岡崎市の公共施設たる広場敷地の用に供するためであつたこと、右交換後、右二筆の土地は、公共施設たる広場の敷地として、付近住民の利用に供されており、岡崎市が、行政財産として管理していることが認められ、右認定に反する証拠はない。

以上の事実関係によれば、岡崎市とジャスコとの間の右交換は、条例三条一項により許容された交換に該当するものと認めるのが相当である。けだし、条例三条一項所定の、岡崎市において「公共用……に供するため必要があるとき」とは、岡崎市が交換により取得した土地を都市計画において整備することを決定した公共施設の用に供する場合のみに限られるものではないからであり、たとえ、同土地が施設建築敷地の整備に関する計画中に定められていたとしても、同土地が公共施設たる広場に供するものと決定され、かつ、現実に広場として公共施設の用に供されている以上(本件各土地が現実に広場として使用されていることは前記認定のとおりである。)、同土地は都市再開発法二条四号にいう公共施設とみるべきであり、原告主張のような施設建築敷地とは認められないからである。

したがつて、右交換が、条例三条一項により許容された交換に該当しないから無効であるとする原告の主張は、その理由がない。

3  請求原因7記載の交換の適否について

(一)  請求原因7の(一)、同(二)のうち、別紙目録(四)の2記載の土地が岡崎市本町康生西第一市街地再開発事業の施行地区内の通路の施行地区外への延長通路の用に供されていることは、原告と被告市長との間において争いがない

(二)  〈証拠〉によれば、岡崎市が交換に供した別紙目録(三)の2記載の土地は、右交換当時(昭和四七年八月一二日)、普通財産であつたこと、岡崎市が右土地との交換によつて井澤屋から別紙目録(四)の2記載の土地を取得した目的は、前記第一市街地再開発事業の施行地区内の公共施設たる通路の施行地区外への延長通路の用に供するためであつたこと、右交換後、別紙目録(四)の2記載の土地は、右延長通路として一般の利用に供され、岡崎市が行政財産として管理しているが、道路法上の道路となるべき手続は履践されていないことが認められ、右認定に反する証拠はない。

以上の事実関係によれば、岡崎市と井澤屋との間の右交換は、条例三条一項により許容された交換に該当するものと認めるのが相当である。けだし、右延長通路につき、道路法上の道路となるべき手続が行われていないとの一事をもつて、岡崎市が右交換を「公共用」に供する目的で行つたことを否定するのは相当ではないからである。

したがつて、右交換が条例三条一項により許容された交換に該当しないから無効であるとする原告の主張は、その理由がない。

4  請求原因8について

(一)  請求原因8の(一)のうち、岡崎市が所有する別紙目録(三)の3記載の土地が岡崎市本町康生西第一市街地再開発事業の施行地区内の土地であることは、原告と被告市長との間に争いがない。

(二)  〈証拠〉によれば、右土地は、岡崎市が、昭和四〇年三月二九日、交換により取得したこと、岡崎市は、右土地が右第一市街地再開発事業の施行地区内にあることから、昭和四六年二月六日、右土地を分割し、その一部(750.5平方メートル)を区画通路の、残部(299.37平方メートル、後で323.15平方メートルに訂正)を広場の、それぞれ用に供することを決定し、行政財産に種別替し、以来、それぞれを区画通路、広場として一般の利用に供していること、右土地につき、昭和四七年五月一日受付で「都市再開発法による権利変換手続開始」の登記がなされたが、その後、錯誤を原因として右登記は抹消されたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

一般に、権利変換計画の決定は、その権利変換手続開始の登記手続後に行われるものといい得るから(都市再開発法七〇条ないし七二条)、右事実関係によれば、岡崎市本町康生西第一市街地再開発組合が権利変換計画を決定したのは、右権利変換手続開始の登記時(昭和四七年五月一日)以降であつて、右決定前に、既に、右土地は、区画通路又は広場として公共の用に供する旨の決定がされ、その用に供されたものと推認することができ、また、右土地の右用途は、都市再開発法二条四号所定の公共施設に該当すると認めるのが相当である。

したがつて、右土地は、右第一市街地再開発組合による権利変換計画決定前に、既に、都市再開発法二条四号所定の公共施設の用に供する旨の決定がされ、その用に供されていたのであるから、権利変換手続の対象とはならない土地というべきである。けだし、都市再開発法上、市街地再開発事業施行地区内の土地は、公共施設(同法二条四号)の用に供されている土地と宅地(同法二条五号)に大別されるが、権利変換手続の対象となる権利は、宅地所有権、借地権等に限られ、公共施設の用に供されている土地は権利変換手続の対象とはならないからである(同法七〇条以下)。

この点に関し、原告は、右土地が都市再開発法上の宅地に該当しないとしても、市街地再開発事業施行地区の土地は、公共施設の用に供されている土地も含め、すべて権利変換手続が執られるべきものであり、また、同法七三条一項一五号、八二条にいう「新たな公共施設」とは「再開発後の公共施設」の意味であるから、右各規定からも、右土地につき権利変換手続が執られるべきである旨主張する。しかしながら、公共施設の用に供されている土地が権利変換手続の対象とならないことは、前記のとおり都市再開発法七〇条以下の規定に照らし明らかであり、また、同法七三条一項一五号、八二条にいう「新たな公共施設」とは、第一種市街地再開発事業の施行により、①従前の公共施設に代えて設置される新たな公共施設、②従前はなかつたが新たに設置される公共施設のことをいうものと解すべきであり、前示の事実関係によれば、右土地は右①、②の場合に当たらず、したがつて、「新たな公共施設」に該当しないから、原告の右主張は、理由がない。

5  請求原因9について

別紙目録(三)の4記載の土地が岡崎市の所有する土地であることは、原告と被告市長との間に争いがなく、また、〈証拠〉によれば、右土地は、市道5類1号線と岡崎市本町康生西第一市街地再開発事業の施行地区内に設置された区画通路とを接続するための通路の用に供するため、昭和四八年八月一二日、行政財産に種別替され、現にその用に供されていることが認められ、右認定に反する証拠はない。

したがつて、右土地を右通路の用に供していることについては何ら違法な点はないので、これを違法とする原告の主張は理由がない。

6  請求原因10記載の交換の適否について

(一)  請求原因10の(一)、同(二)のうち、別紙目録(四)の3記載の土地が本件事業の施行地区外の土地であることは、原告と被告市長の間において争いがない。

(二)  〈証拠〉によれば、岡崎市が右交換に供した別紙目録(三)の5記載の土地は、右交換前の昭和五二年一二月五日、用途廃止され、行政財産から普通財産に種別替されたこと、岡崎市が、右土地との交換によつて日興ビルディングから別紙目録(四)の3記載の土地を取得した目的は右土地を、本件事業の施行地区内に存する区画通路(岡崎市康生通西二丁目二一番地一、同所二〇番地七、九、一一、一五及び同所五一番地一の一部から成る通路)と一体をなす通路の用に供するためであり、これにより右区画通路の市道5類4号線と接する付近における幅員不足が補われ、均等の幅員を有する通路になつたこと、右交換後、別紙目録(四)の3記載の土地は、右区画通路と一体をなす通路として一般の利用に供され、岡崎市が行政財産として管理していることが認められ、右認定に反する証拠はない。

以上の事実関係によれば、岡崎市と日興ビルディングとの間の右交換は条例三条一項により許容された交換に該当するものと認めるのが相当である。

なお、原告は、岡崎市が右交換により取得した別紙目録(四)の3記載の土地を本件事業の施設建築敷地の通路(前記区画通路)の幅員不足を補うための通路の用に供することは、右土地を公共用に用いるものとはいえない旨主張し、〈証拠〉によれば、右区画通路は本件事業に係る都市計画において、公共施設の配備及び規模の箇所では触れられておらず、建築敷地の整備の一環として計画されていることが認められる。しかしながら、条例三条一項所定の、岡崎市において「公共用……に供するため必要があるとき」とは、岡崎市が交換により取得した土地を都市計画において整備することを決定した公共施設の用に供する場合のみに限られるわけではないから、右の都市計画に関する事実は、前記認定の事実関係の下において、右交換が条例三条一項により許容された交換に該当するとの前記判断の妨げとなるものではなく、結局、原告の右主張は理由がない。

三請求の趣旨第三項の請求について

原告の本件訴えは、岡崎市は、岡崎市所有の別紙目録(五)の1、2記載の各土地を本件事業の施行地区内に有しているから、被告組合に対し、右各土地につき権利変換手続を執ることを請求でき、被告組合は右手続を執るべき義務があるとして、地自法二四二条の二第一項四号に基づき、被告組合に対し権利変換手続を執ることを求めるものであり、原告は、右請求が、同号所定の「当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に対する……妨害排除の請求」に該当すると主張する。

しかしながら、被告組合が都市再開発法第三章第二節の諸規定に基づいて行う権利変換手続は、被告組合が、本件事業の施行地区内の個々の宅地等の所有者等に対する私法上の義務の履行として行うものではなく、同法に基づく公法上の義務として行われるものであり、また、右手続の一環として行われる権利変換に関する処分は、施行地区内の土地を権利変換期日において、権利変換計画の定めるところに従い、新たに所有者となるべき者に帰属させるなどの法的効果をもたらすものであるから(同法八六、八七条)、右処分が行政処分に該当することは明らかである。したがって、原告の本件訴えは、被告組合に対し、行政処分を行うことを含む公法上の手続を履践することを求めるものとみるべきである。ところで、地自法二四二条の二第一項四号の規定は、同法が住民訴訟として許容している代位請求の形態、種類を限定的に列挙したものと解すべきところ、本件訴えのような、相手方に対し行政処分を行うことを含む公法上の手続を執ることを求める請求が、同号所定の「当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に対する……妨害排除の請求」に含まれると解することには、文言上、無理があり、また、同号所定の他のいずれの形態の請求にも該当しないから、結局、本件訴えは、同号が許容していない不適法な訴えといわざるを得ない。

四以上の次第であつて、原告の本件訴えのうち、請求の趣旨第一項及び第三項記載の各訴えは、いずれも不適法であるからこれらを却下し、その余の請求はいずれも理由がないのでこれらを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(加藤義則 高橋利文 綿引穣)

目録(一)ないし(五)〈省略〉

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